うまいもんドットコムの仕入れ人八尾です。
当店では只今、石川県能登の復興支援のために、県と連携を強化中です。それに関連して現地を訪れた際、星付きレストランの料理人たちが買い付けるという特別なウナギに出会いました。
その名は「能登うなぎ」。養殖ウナギですが、一般的なニホンウナギとは違う面白い存在について、お伝えします。
■能登うなぎとは

能登うなぎとは、石川県能登半島の志賀町で養殖するブランドウナギで、国内では珍しい「ビカーラ(ビカール)」というウナギ品種を使っています。
ビカーラは東南アジア原産で、ニホンウナギの資源問題が大きく取り上げられた2010年代に、比較的豊富にあり養殖も可能ということで注目が集まりました。
インドネシアでは食用として人気があり、ニホンウナギに近い食味を持ちながら、大型化しやすく資源量を確保しやすいと考えられていました。国内でも導入が期待されましたが、同じ機器での飼育は難しく、既存の養鰻場では採用されませんでした。
そこで独自のブランド化に乗り出したのが、有限会社ティ・エス・ビィの荒井さんです。
■能登うなぎを育てる荒井道雄さん

能登うなぎを育てる荒井道雄さんです。
荒井さんはもともと通信会社に勤めていました。実家が農家だったこともあり、いつかは一次産業に関わる仕事がしたいという思いがあったそうです。
そんな中、ビカーラというウナギに出会い、当時は養殖業者へ紹介をしていたそうですが、誰も本格的に取り組もうとはしないため、「それなら自分でやってみよう」と一念発起。
能登の海を臨む土地で、一人で挑戦を始めたのです。
■常識外れの独自の養殖設備

私はこれまで全国で様々な養鰻場を見てきましたが、全く違います。
一般的なウナギ養殖は深い水槽を使い、水流を作りウナギが泳ぎ回るようにします。さらに、プールの下にたまった泥を吸い取る機器や、大型の沈殿槽・浄化槽も併設、うなぎの水揚げ・仕分けるための機械など、大規模な設備が必要です。
ところが荒井さんは、細長く浅い独自の水槽を養殖池としてます。荒井さんによると、天然の浅瀬を再現しているとのこと。一人で管理できる大きさの浄化槽を使い、泥は人の手も使いながら小さなポンプで集めて排出します。
「ホームセンターにあるものでメンテナンスができる」ことを重視しており、複雑な機械などは入れません。うなぎの水揚げは自ら選びタモで救い上げることで完結します。
■能登うなぎとは

養殖池の風景はとても特徴的。
特にウナギたちが泳いでいるのではなく、ちょっと顔を出して直立しているような形になっているのは、どこかかわいらしさも感じます。
他の養鰻場と比べると、のんびりしていると感じます。
最近のニホンウナギ養殖は極めて高度化しており、専用の餌なども開発されています。給餌管理も厳密で、一日に複数回、深夜にも餌を与えるケースもあります。そのため半年〜1年ほどで水揚げできる大きさに育つようになっています。
荒井さんはそれを行わずに「夜に餌が出ないのが普通だと分かれば、ウナギもそれに合わせる」という考えで給餌回数は少なく、また一般的な養殖魚用の配合飼料を与えています。
時間は1年〜1年半ほどかかりますが、驚くほど太く肉厚なウナギに育つのです。
■料理人に評価される大型のウナギ

ご覧くださいこのサイズ。
ニホンウナギで最大級の400g超は当たり前。時には500g級になることもあるそうです。
脂乗りが良く、肉厚で歩留まりの良いビカーラは、フレンチやイタリアンの星付き料理人たちにも評価されています。
大型で肉厚なことももちろんですが、他のウナギと一線を画す鮮度、荒井さんの扱いの良さも魅力です。
■鮮度の違いも料理人をうならせる

一般的なウナギは泥を食べるため、水揚げしたあと「立て場」と呼ばれる生簀で地下水などを浴びせて、体の中の水を綺麗な水と入れ替えます。この工程に実に2日ほどかかります。
荒井さんの養殖では泥がほとんど底にたまりません。そのため水揚げしてすぐに出荷でき、うなぎの活きが違うのです。
鮮度抜群のビカーラ活魚は迫力があるでしょう。料理人もワクワクするに違いありません。
しかも肉厚で脂のり抜群。ニホンウナギと比べても引けを取らない味。こだわりの人にとっては、これほど特別なウナギはなかなかないでしょう。
■ウナギと暮らす
そんな荒井さんの養殖は、仕事というより「暮らし」という表現が近い気がします。
ウナギに人間が合わせるのではなく、ウナギが人間のペースに慣れるように、メリハリのある養殖を行ってます。
このやり方であれば、手伝う人も無理なく交代制でできる、と荒井さんは語ります。

養殖場を出ると、この景色。目の前に広がるのは日本海です。
養殖場の管理は、ほとんど荒井さん一人で行っていますが、事務所にいれば空調が効いていて快適。
自分の生活リズムに合わせて作業を行います。
能登の自然の中で、自分のペースでウナギを育てる。
それでも料理人たちが求めるような見事なウナギを生み出している。なんとも魅力的な生き方と感じました。
荒井さんの養殖場にながれるゆったりとした空気は、「ウナギとの暮らし」という言葉がぴったりかもしれません。
■能登半島地震を乗り越えて

そんな荒井さんですが、2024年の能登半島地震ではここも被害を受けました。
出荷は停止。再開できたのは2026年春になってからだそうです。
当店でも取り扱いたいと考えていますが、皆様にご紹介できるのはもう少し先になるかもしれません。
現在は活鰻出荷だけですので、課題は加工。鰻専門店や加工業者と連携を取ってみます。
もちろん活鰻から捌くのにチャレンジしたいという方には、そのままお届けできるようにも調整を行います。
本日はぜひ「能登でこんな挑戦をしている人がいる。」ということを覚えていただければ幸いです。
